皆さま、こんにちは。
脳神経外科医の遠藤です。
2017年に、聖麗メモリアル病院にて『しびれ外来』を立ち上げ、そこから多くの患者さんの『しびれ』の治療にあたってまいりました。
しびれの原因は、脳・脊椎(せぼね)・末梢神経(手足の神経)、その他にも多分野にわたります。
患者さんは、何科を受診するかわからないことも多く、複数の医療機関を受診している方も少なくありませんでした。
しびれの専門家となるには、神経系の全ての分野に精通している必要があり、そのようなトレーニングを積んできたと自負しております。
このページでは、『しびれ』について、なるべくわかりやすくまとめたつもりです。
『しびれ』でお悩みの方に少しでもお役に立てれば幸いです。
『しびれ』とは??
『しびれ』とは、何なのでしょうか。
・ビリビリ、ピリピリ
・正座の後のジンジン
・さわった感覚がわからない
など、誰しも一度は感じたことはあると思います。
例外はありますが、『しびれ』とは
体のどこかの神経に障害が起こっている状態
なのです。
では、『神経』とは何なのでしょうか。
実は、脳も『神経』なのです。
そして脊髄(せきずい)も『神経』です。
かなり衝撃な絵ですが、これが全身の神経の分布となっております。
左が全身の神経の分布、右は上半身を拡大したものです。
神経の一番のおおもと(親玉)は、『脳』です。
脳という神経細胞の塊から『脊髄(せきずい)』という長い筒状の神経の束(たば)がお尻まで伸びてきます。
そしてこの脊髄から左右にたくさんの神経が分岐して、体のさまざまなところへ向かいます。
この脊髄から出た神経を『末梢神経(まっしょうしんけい)』と言います。
例えるなら、ダムから上流の川が出ていてそこから支流が分岐しているのをイメージしてください。
ダムが脳
上流の川が脊髄
支流が末梢神経
のイメージです。
絵のように、脳と脊髄は体に1つしかありませんが、末梢神経はたくさんあります。
『しびれ』はこれらの神経のどこかに障害があると生じるのです。
『しびれ』は神経のSOS?
障害がとても強く、神経が完全に死んでしまうと、手や足を動かすことができなくなる『麻痺』という状態になってしまいます。
たとえば、脳に強い障害が起こす脳卒中では、体の左右どちらか半分が動かなくなってしまいます。
軽い脳卒中で、脳の細胞が十分生き残っていれば 手足の『しびれ』のみで済む場合もあります。
『しびれ』は、完全に神経が死んでしまう状態には至っていない状態です。
が、『神経が多かれ少なかれ痛んでいますよ』というサインにもなっています。
放っておいてもよい『しびれ』とは?
では、『しびれ』が出たら、すぐに病院を受診しなければいけないのでしょうか。
もちろんそんなことはなく、放っておいてもよい『しびれ』もあります。
★正座の後の『しびれ』
★変な寝相で寝てしまった後の『しびれ』
★肘を机などにぶつけってしまった時の『しびれ』
★運動や筋肉トレーニングの後の『しびれ』
などは、心配ありません。
すぐに(長くても数日以内に)治る『しびれ』ならまず心配ないと思ってよいでしょう。
すぐに医療機関を受診しなきゃいけない『しびれ』とは?
では、すぐに救急車を呼んででも医療機関を受診しなければいけない『しびれ』というのどんなものなのでしょうか。
ほぼこの3つなので、覚えておいてください。
★手足の麻痺を伴う『しびれ』
★どちらか体の片側のみの『しびれ』
★よだれが出たり、呂律(ろれつ)が回らない、めまい等を伴う『しびれ』
このような症状が『突然』出た場合は、脳卒中の可能性が高いですので、一刻も早く脳神経外科を受診してください。
『突然』というのがキーワードです。
しびれをきたす疾患
ここからは、しびれをきたす疾患について、体の部位ごとにみていこうと思います。
稀なものや特殊なケースなどは除きました。
また、痛みとしびれは厳密には違うのですが、ここでは痛みとしびれは、ひとくくりに考えて差し支えないかと思います。
頭のしびれ
頭のしびれで、外来に来られる方は結構います。
基本的には頭のしびれだけの場合は、心配がないことがほとんどです。
頭のしびれの多くは頭皮の神経痛で、基本的には放っておいても問題ありません。
原因はあまりよくわからないのですが、ストレスや寝不足も原因の一つと言われています。
また首や肩が凝っていると頭皮に向かう神経が圧迫されて起こるとも言われています。
いずれにしましても、ほとんどのケースは放っておいても問題ありません。
ただ心配でしたら、頭のCTかMRIを撮って頭の中に問題がないことが確認できれば、より安心できるでしょう。
頭のしびれが、しびれを通り越して強い痛みも伴い、さらに発疹が見られていた場合は、帯状疱疹の可能性があります。
この場合は、適切な内服薬や軟膏を使わないと改善しませんので、できるだけ早く皮膚科に受診してください。わからない場合は脳神経外科でも対処可能ではあります。
顔のしびれ
顔のしびれが出た場合は、少し注意が必要です。
特に、顔の左右どちらかに突然しびれが出た場合は、脳卒中の可能性が考えられます。
脳卒中には、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血と3種類あるのですが、顔のしびれをきたすもので最も頻度として多いのは脳梗塞です。
脳梗塞は、CTでは診断がしづらいので、正確な診断にはMRIが必要です。
突然に顔のしびれが出た場合は、できるだけ早くMRIが取れる施設(脳神経外科か神経内科)を受診してください。
突然でなくても顔がしびれるといった場合には、頚椎疾患の可能性も考えられます。
通常、頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアのような頚椎疾患では、腕や手のしびれが起こります。
ただし、頚椎の上のほうの疾患ですと、顔の神経に関連する部分にまで悪さをすることがあり、その場合は顔のしびれや頭痛といった症状を引き起こすことがあります。
体のしびれ
体のしびれは、頚椎が原因のことが多いです。
頚椎の疾患で代表的なものは、頚椎症と頚椎椎間板ヘルニアです。
頚椎疾患では腕や手にしびれをきたすことが多いのですが、体全体や一部のしびれをきたすこともあります。
頚椎症に関しては、ここ⬇️で詳しく載せております。
頚椎椎間板ヘルニアは、ここ⬇️をご参照ください。ページの後半に詳しく載せています。
腕、手のしびれ
腕と手のしびれを起こすものは、以下のものが考えられます。
突然の左右どちらか片側の手足にしびれがでた場合は、脳卒中を疑います。
「突然」と「左右どちらか」というところがキーワードです。
突然、左右のどちらかの手足にしびれが出た場合は、できるだけ早くMRIが取れる施設(脳神経外科か神経内科)を受診してください。
頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアでは、腕や手のしびれが起こります。
腕全体の時もあれば、ピンポイントの時もあります。
下の図のような範囲が痺れることが多いです。
頚椎症に関しては、ここ⬇️で詳しく載せております。
頚椎椎間板ヘルニアは、ここ⬇️をご参照ください。ページの後半に詳しく載せています。
下の写真のように、手のひらと親指、人差し指、中指、薬指がしびれるような場合は、手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)の可能性が考えられます。
手根管症候群は、手根管という手のひらの正中神経という神経の通り道が狭くなり、神経が圧迫され、手のしびれを来す疾患です。
このページ⬇️で詳しく書きましたので、ご参照ください。
肘部管と書いて、『ちゅうぶかん』と読みます。
上の、手根管症候群とはちがい、下の図のように小指と薬指の2本がしびれる場合は、肘部管(ちゅうぶかん)症候群の可能性があります。
肘部管は、肘の内側にあるトンネルで、その中に尺骨神経(しゃっこつしんけい)という神経が通っています。
肘部管症候群では、何らかの原因で、このトンネルが狭くなり尺骨神経を圧迫されると、小指、薬指にしびれが生じます。
ひどくなってくると前腕やヒジまでしびれてきたり、力が入りにくくなったりします。
胸郭出口とは聞きなれない名前かと思いますが、『きょうかくでぐち』と読みます。
胸郭出口症候群は、腕を挙げた時に、腕や手のしびれが出るという特徴があります。
図のような範囲がしびれます。
腕や手に向かう神経は、全て鎖骨の下を通ります。
胸郭出口症候群では、その鎖骨の下のスペースが狭くなることで神経が圧迫され、腕や手がしびれます。
腕を挙げることで、この鎖骨下のスペースがさらに狭くなり、神経の圧迫が強くなり、しびれが強くなります。
頚椎症との区別が難しく、頚椎症として診断されているケースもけっこうあります。
頚椎症では、腕を上げ下げではあまり症状は変わりません。
※頚椎症の場合は、首の動きによって症状が強くなることが多い。
胸郭出口症候群は、自分でもある程度診断することができます。
鎖骨の後ろのくぼみのスペース(写真参照)を押すと、腕にしびれが放散するといった特徴があります。
なぜ、鎖骨の下のスペースが狭くなるかは、はっきりとわかっておりませんが、なで肩の方に比較的多いとされています。
また重労働をしすぎても起こることがあります。
足のしびれ
足のしびれをきたすものとしては、以下の疾患が考えられます。
腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)とは、腰の脊柱管という神経の通り道が狭くなり、中の神経が圧迫されている状態です。
腰の神経が圧迫されると、足やお尻にしびれや痛みが出てしまいます。
足全体であったり、片足のみであったり、ふくらはぎのみであったりと、足であれば様々な場所がしびれます。
坐骨神経痛を引き起こすこともあります。
また、歩いているうちにお尻や足がしびれてきて歩けなくなってしまい、少し休憩するとまた歩けるようになるという特徴があります。
これを間欠性跛行(かんけつせいはこう)と言います。
このページ⬇️で詳しく載せております。
腰やお尻の激しい痛み、足のしびれ(もしくは痛み)がある場合は、腰椎椎間板ヘルニアの可能性を考えます。
かなり強い痛みが特徴で、痛みで歩くこともままならないことも多々あります。
椎間板は、下図のように骨と骨の間にあり、クッションの役割をしています。
腰椎椎間板ヘルニアでは、腰の椎間板が、本来あるべきところに収まらず、神経の通り道側に飛び出してしまい、神経が圧迫されて、足のしびれや痛みが起こります。
腰椎椎間板ヘルニアについて、このページ⬇️で詳しく載せております。ご参照ください。
梨状筋は、『りじょうきん』と読みます。
梨状筋症候群では、お尻から太ももの外側にかけてのしびれ・痛みをきたすことがあります。
いわゆる坐骨神経痛と言われている症状です。
梨状筋(りじょうきん)は、お尻の深いところにある、骨盤と股関節をつなぐ筋肉です。
坐骨神経は、腰から出た後、太い束になったら、この梨状筋の下を通って足の方へ向かいます。
この梨状筋が硬くなったり、こり固まったりすると、坐骨神経を圧迫し坐骨神経痛を引き起こすことがあります。
このような状態を、梨状筋症候群といいます。
閉塞性動脈硬化症()とは、足の動脈の動脈硬化が進行することで、足の先への血流が低下してしまう病気のことです。
足への血流が低下するため、足のしびれ、冷え、ふくらはぎの痛みなどの症状を引き起こします。
重症な場合は安静にしていても足に強い痛みが生じるようになります。
また、腰部脊柱管狭窄症と同様、間欠性跛行(かんけつせいはこう)をきたすことがあります。
※間欠性跛行とは、歩いているうちにお尻や足がしびれてきて歩けなくなってしまい、少し休憩するとまた歩けるようになる症状。
足の裏のしびれ
足の裏のしびれをきたすものとして、足根管症候群と腰部脊柱管狭窄症を考えます。
足の裏の痺れのみの場合は、足根管症候群(そっこんかんしょうこうぐん)の可能性があります。
足の裏がジンジンしたり、砂利の上を歩いているような感覚になります。
足の裏の図のような範囲がしびれます。かかとは、あまりしびれないのが特徴です。
足根管症候群とは、足の裏に向かう脛骨神経(けいこつしんけい)という神経が、内側のくるぶし付近(足根管)で圧迫され、足の裏がしびれてしまう状態です。
腰部脊柱管狭窄症は、上に書いたように、足の多彩な場所にしびれを引き起こし、足裏のしびれも引き起こします。
上記の足根管症候群との鑑別が難しい時もあります。
腰部脊柱管狭窄症は、このページ⬇️で詳しく解説しています。
まとめ
しびれの病態やしびれを来す疾患について解説してまいりました。
解説した以外にもしびれを来す珍しい疾患はありますが、まずはここに載っている疾患を押さえておけば、大半はカバーできると思います。
最後に、しびれの部位別疾患について、病名のみでまとめてみました。
頭のしびれ
・頭皮の神経痛
・帯状疱疹
顔のしびれ
・脳卒中
・頚椎症(特に上のほう)
体のしびれ
・頚椎症
・頚椎椎間板ヘルニア
腕、手のしびれ
・脳卒中
・頚椎症
・頚椎椎間板ヘルニア
・手根管症候群
・肘部管症候群
・胸郭出口症候群
足のしびれ
・腰部脊柱管狭窄症
・腰椎椎間板ヘルニア
・梨状筋症候群
・閉塞性動脈硬化症
足裏のしびれ
・足根管症候群
・腰部脊柱管狭窄症
クリニック開院のお知らせ
このたび遠藤は、2023年2月1日、東京都杉並区に高性能の最新MRI、CTを完備した、しびれと頭痛に特化した専門クリニックを開業させていただくこととなりました。
都内近郊にお住まいの方や都内に来院可能な方は、2023年2月以降に、都内クリニックをぜひご利用ください。
2022年12月よりWeb予約開始となります。
Web予約での取り方がよくわからなかったり、ご都合のいい日で取れなかったりしましたら、2023年2月1日以降直接ご来院ください。
また2月1日以降は電話予約も可能となります。
詳しくは、以下ホームページをご参照ください。
クリニック名称 :すぎなみ脳神経外科・しびれ・頭痛クリニック
公式ホームページ:https://suginami-nouge.com