後縦靭帯骨化症とは?

皆様、こんにちは。脊椎外科医の遠藤です。

今回は、後縦靭帯骨化症について、解説していきたいと思います。

目次

後縦靭帯骨化症とは?

後縦靭帯骨化症 = こうじゅうじんたいこっかしょう と読みます。

この病気について なるべくわかりやすく解説していきたいと思います。

なにやら漢字の字数がやたら多い印象ですが、、

まず『後縦靭帯(こうじゅうじんたい)』とは何なのでしょうか。

文字どおり、にある縦(たて)に伸びる靭帯なので、こう呼びます。

この靭帯が、骨化つまり骨になるという病気というわけです。

後縦靭帯骨化症って長いし言いにくいので、我々医療者は『OPLL』ということが多いです。

なぜかというと、全く覚える必要はありませんが、英語で、Ossification of the Posterior Longitudinal Ligamentというので、その頭文字をとってOPLLです。

さて、後縦靭帯(こうじゅうじんたい)とは一体どこにあるのでしょうか。

下の絵は、首を左側から見ています。つまり向かって左側が前方で、右側が後方です。C2とかC3とか書いてあるのは、椎体という首の骨です。その右側(実際には後側)に脊髄があります。

後縦靭帯は、この骨と脊髄の間にあります。

そして後縦靭帯は、首だけでなく、そのままずっと下のほうまで伸びていき、せぼねの一番下の位置まで達します。

次に立体で見てみましょう。

首の骨を、横から、後から、上から見た時の後縦靭帯の位置を示しております。

赤い矢印で示した水色の帯のような部分が後縦靭帯です。

後縦靭帯は、せぼねの首からお尻まで連なっていて、とっても長い靭帯なのです。

そしてこのうちのどこかが、骨になってしまう病気が、後縦靭帯骨化症なのです

後縦靭帯は、もともとは柔らかい組織なのですが、そこが骨になってしまうので、硬くなります。

ただ硬くなるだけならば、それほど大きな問題にならないのですが、硬くなったうえに分厚くなってしまうことがあり、これが問題となるのです。

後縦靭帯の後ろには、脊髄という非常に重要な組織があります。

脊髄は、全身にくまなく神経を送っている神経の親玉なので、硬くなった後縦靭帯が分厚くなって脊髄まで達してしまうと、脊髄が圧迫され、さまざまな症状が出てしまいます(下の絵をご参照ください)。

骨化した後縦靭帯が、分厚くなり脊髄の方向まで達しているのが確認できます(赤矢印部分)。

後縦靭帯骨化症の原因

では、後縦靭帯骨化症の原因は何なのでしょうか。

実は、まだこの病気の原因ははっきりとわかっていないのです。

遺伝が関係していることは確実なようです。

家族内にこの病気の人がいると、通常の人よりなりやすいというデータがあります。

ただし、家族にこの病気の人がいるからといって必ずなるわけでありません。

また、後縦靭帯骨化症の患者さんに、比較的、糖尿病や肥満の方が多いとの報告があります。

これも完全に解明されたわけではなく、糖尿病や肥満だからといって発症しやすいというわけではないようです。

まだはっきりわかっていないことが多い病気なのです。

現時点で確実にわかっているのは、以下3点です。

①日本人に多い

男性に多い

症状が出るのは50代以降に多い 

この3点は、データ的に明らかとされております。

後縦靭帯骨化症の症状

では、後縦靭帯骨化症はどんな症状をきたすのでしょうか?

先ほど申し上げましたように、後縦靭帯は、首からお尻まで続いているとても長い靭帯です。

ですので、せぼねのどの場所で、後縦靭帯が骨化するかによって、症状が異なります。

せぼねは、首、背中、腰の3つのエリアに分かれます。

首の部分を頚椎(けいつい)

背中の部分を胸椎(きょうつい)

腰の部分を腰椎(ようつい)

と呼びます。

頚椎の後縦靭帯が骨化した場合は、頚椎後縦靭帯骨化症

胸椎の後縦靭帯が骨化した場合は、胸椎後縦靭帯骨化症

腰椎の後縦靭帯が骨化した場合は、腰椎後縦靭帯骨化症

となります。

この3つの中では、圧倒的に頚椎に多く発生します。

ただし、どのタイプの後縦靭帯骨化症も、骨化がたいしたことなく、脊髄や神経に達していない場合は、無症状です。

骨化が分厚くなり脊髄に達してしまった場合に症状が出てしまいます。

まず一番多いのは、手や腕のしびれで、ビリビリしたりジンジンしたりします。

また手先の感覚が鈍くなったり細かい作業ができなくなったりします。

進行してくると足にも症状が出てきます。

その場合早く歩けなくなったり、階段が降りずらくなったりします。

基本的には、同じ首の病気の頚椎症に症状は類似しております。

頚椎症には2種類あり、特にそのうちの頚椎症性頚髄症と症状は類似しております。

頚椎症についてはこちら⬇︎で詳しくまとめてありますので、ご参照ください。

頚椎後縦靭帯骨化症の場合、足に症状が出た場合はかなり重症と考えた方がいいです。

さらに重症となると、排尿障害や排便障害が出てきます。

胸椎の場合は、手や腕には症状は出ません。

骨化した靭帯の位置より下の部分に症状が出ます。

多いのは、足のしびれ、脱力感、お腹や胸付近の感覚がおかしいなどです。

頚椎と違って重症になってから足の症状が出るわけではなく、比較的症状の初期でも足の症状が出ることが多いです。

その際は、歩行障害というよりは、足のしびれがメインとなることが多いです。

しかし、重症になれば歩行障害になってしまうことは頚椎と変わりなく、さらに重症となると排尿障害や排便障害が出てきてしまいます。

腰痛の後縦靭帯骨化症は、頚椎や胸椎よりも、頻度は稀です。

腰椎の場合は、下半身のみに症状が出ます。

最も多いのは、足のしびれや痛みです。長く歩くとしびれが出てしまい、少し休むと改善するといった間欠性跛行という歩行が特徴です。

腰部脊柱管狭窄症と症状は類似しております。

腰部脊柱管狭窄症についてはこちら⬇︎で詳しくまとめておりますので、ご参照ください。

やはり、重症になればさらに歩行障害が進み、さらに重症となると排尿障害や排便障害が出てきてしまうことは、すべての後縦靭帯骨化症に共通しております。

後縦靭帯骨化症の診断

レントゲン、CT、MRIで診断します。

特にCTで、後縦靭帯の骨化がはっきりわかります。

MRIでも多くは診断できますが、通常の頚椎症との区別が付きづらいものもあります。

レントゲンだと、骨化が分厚くないとわかりづらいです。

正確な診断をつけるためには、CT、MRIが撮れる医療機関を受診しましょう。

頚椎の後縦靭帯骨化症の画像です。

CT(左)では骨化した靭帯は白く写るので、すぐわかります。

通常では、この部分はCT写真では白く写りません。

MRI(右)では、骨化靭帯は黒く写るので、頚椎症と区別が付きづらい時があります。

胸椎はCTのみの画像しか用意できませんでした。

赤矢印で示した白い部分が、骨化した後縦靭帯です。

腰椎でも同様です。

CT(左)では、矢印で示した白く写っている部分が骨化した後縦靭帯です。

MRI(右)だとこんな感じです。椎間板ヘルニアも黒く写るので、区別が付きづらいですね。

後縦靭帯骨化症の治療

後縦靭帯骨化症の治療はどういったものがあるのでしょうか。

手術以外の方法を保存的治療というのですが、基本的には保存的治療手術治療の2種類が治療の主体となります。

保存的治療の柱は内服治療です。

軽症例はまず内服治療です。

せぼねの病気に用いる薬剤は、首であろうと腰であろうと共通しています。

後縦靭帯骨化症でも、せぼねの病気の薬を使用します。

薬についての詳細はここ⬇︎で詳しくまとめてあります。

薬物治療の他にも、温熱療法や牽引なども保存的治療に含まれます。

ただし、どちらも有効性は証明されておらず、かえって悪化のリスクもあり、当院では行っておりません。

また後縦靭帯骨化症の患者さん(特に中等度以上)は、転倒や交通事故などによる首の怪我で、重症になりやすいといった特徴があります。

健常な方であれば、軽いムチウチ症ですむような首の怪我でも、後縦靭帯骨化症の患者さんだと、重篤な脊髄損傷をきたしてしまう可能性が高いのです。

ですので、首の怪我の防止に関しては、徹底してもらいます。

なお、カイロプラクティックや整体では、後縦靭帯骨化症は治りません。

首を動かすような施術は、絶対に避けるべきでしょう。

保存的治療(特に内服薬治療)で改善が見られなかったり、進行するものには、手術を検討することになります。

まず一番頻度の多い、頚椎の後縦靭帯骨化症の手術について述べたいと思います。

頚椎後縦靭帯骨化症の手術適応は、頚椎症性頚髄症の手術適応と基本的には考え方は同様です。

頚椎症性頚髄症の手術適応についてはここ⬇︎でまとめてありますので、ご参照ください。

症状が全くない、もしくは 手の軽いしびれ程度といった軽症例では手術は必要ありません。

それ以上の症状だと手術を検討する段階となってきます。

しかし頚椎後縦靭帯骨化症が、頚椎症性頚髄症と異なる点が、軽症例でも予防的手術をした方がいいという意見もあるところです。

頚椎症性頚髄症の場合は、軽い手の痺れ程度の軽症の段階では、まず手術をしません。

頚椎後縦靭帯骨化症の場合は、先ほど申し上げましたように、転倒や交通事故などの首の怪我をきっかけに、一気に悪くなってしまうことがあるため、まだ症状が軽度であっても手術をした方がいいという意見があるのです。

もちろん、骨化の範囲が非常に小さく、脊髄を全く圧迫していないようなケースでは、首の怪我での悪化のリスクは、通常の方と変わりませんので、手術をすることはまずありません。

ある程度骨化が分厚くて脊髄を圧迫していて、症状は手の軽い痺れ程度、日常生活は問題なくできている 

といったケースが、手術が必要かどうか議論の対象となっております。

この点は、専門家の間でもまたしっかりとした結論はでていないため、私も実際の診療でも、迷うケースが結構あります。

医師が迷うケースですので、患者さんはもっとわからないことかと思います。

ですので、しっかり時間をかけて、担当医は患者さんと話し合う必要があると思っております。

早急に結論を急いだり、説明が足りないと感じるような担当医だった場合、セカンドオピニオンなども検討した方がいいかもしれません。

次に、手術方法ですが、

手術には、首の前方から行く方法後方から行く方法があります。

症例によって使い分けるのですが、前方の方がややリスクが高いと言われております。

ただし前方からの手術でないと手術の効果があまりないといった症例もあります。

前方、後方どちらでもできる場合は、よりリスク少ない後方からの方法を選ぶ外科医が多いのではないかと思います。

前方からの方法は、直接、骨化した後縦靭帯に到達できるので、骨化靭帯そのものを切除できるといったメリットがあります。

また首のカーブの程度に関係なく、直接、病変を切除できるのもメリットです。

ただし、骨化した後縦靭帯が脊髄と一体化していることがあり、そうしたケースで、脊髄から強引に骨化靭帯を剥がすと、脊髄の膜が破れることがあります。

脊髄の膜が破れてしまうと、中から髄液という液体が漏れてしまい、後々、問題となることがあります。

ですのでその場合は、完全には骨化靭帯は切除せずに、脊髄側に骨化靭帯を薄々(うすうす)にして残すといったテクニックが必要になってきます。

これが中々難しくて、注意していても、脊髄の膜を破いてしまったり、薄々にしたつもりが、けっこう分厚い骨化靭帯が残ってしまうというケースも、起こり得てしまいます。

しかし、骨化靭帯がそれほど分厚くないケースでは、きれいに脊髄から剥がすことが可能ですので、非常に効果的な手術となります。

後方からの方法は、後縦靭帯の分厚さに関係なく、毎回同じ方法で手術を完結できるといったメリットがあり、手術成績が安定する特徴があります。

後縦靭帯骨化症は、骨化靭帯が分厚くなって、前から脊髄を圧迫していることはお伝えしました。

脊髄の後ろには骨があるので、脊髄は、前からの骨化靭帯と後ろの骨とで板挟みになっている状態なのです。

後方手術は、直接、骨化靭帯を切除するのではなく、脊髄の後ろの骨をとっぱらいます(正確には余裕のあるスペースに細工します)。

そうすることで、前方から骨化靭帯が迫ってきても、脊髄が後ろに逃げることが可能となり、脊髄の圧迫が解除されるというわけです。

それほど、高度のテクニックが必要とはされず、手術成績も安定しているので、全国的に広く行われている手術です。

ただ、首の骨のカーブの方向によっては、あまり効果的でないケースもあります。

脊髄を後ろに移動させるのが、後方手術の目的なのですが、首のカーブの角度によって、脊髄が後ろに移動しづらい時があります。

その場合は、あまり後方手術が効果的でないため、前方手術を選択することになります。

このように、症例によって、前方、後方、いずれかを使い分けています。

ただ、先ほども申し上げましたが、前方、後方どちらでもできる場合は、よりリスク少ない後方からの方法を選ぶ外科医が多いのではないかと思います。

最後に、我々外科医が最も危惧しているケースについて述べたいと思います。

骨化がかなり分厚くて、症状がかなり進行しているような重症の頚椎後縦靭帯骨化症だと、手術自体に問題がなくても、手術後に病状が悪化してしまうといったケースが起こってしまうことがある

ということです。

そして軽症例では、手術リスクはかなり下がることも事実です。

正直、熟練した外科医であれば、軽症例では、ほぼリスクがないといっていいのではないでしょうか。

となると、重症の頚椎後縦靭帯骨化症になる前に、手術をしてあげたいという気持ちに外科医がなるのは当然です。

でも患者さんとしては、なんで症状が軽いのに、首の手術をしなくちゃいけないんだって気持ちになるのも当然です。

こうしたジレンマと脊椎外科医は戦っております。

将来的に、歩けなくなっちゃいますよって脅して手術にこぎ着けるのは簡単ですが、それは絶対にしてはいけないと思っております。

ですので、ここで、臨床経験やガイドラインに基づいた私個人の手術適応の見解を伸べたいと思います。

骨化靭帯の脊髄の圧迫の程度(軽度、中等度、重度)

症状(症状なし、軽度、中等度、重度)

によって治療方針をおおまかに分類しました。

症状に関しては、軽度は日常生活問題なし、中等度は日常生活やや難あり、重度は日常生活に大きな支障あり

としました。

①骨化靭帯が脊髄を圧迫していない、症状なし

➡︎手術適応なし。数年〜10年後くらいにCTチェック

②骨化靭帯が脊髄を軽度圧迫、症状なし

➡︎経過観察。半年〜1年ごとにCTチェック

③骨化靭帯が脊髄を軽度圧迫、症状は軽

➡︎ 経過観察もしくは内服治療。数ヶ月ごとにCTチェック

④骨化靭帯が脊髄を軽度圧迫、症状は中等度

➡︎ 内服治療もしくは場合によっては手術を検討

⑤骨化靭帯が脊髄を中等度圧迫、症状は軽度

➡︎ 内服治療もしくは場合によっては手術を検討

⑥骨化靭帯が脊髄を中等度圧迫、症状は中等度

➡︎ 手術を検討

⑦骨化靭帯が脊髄を中等度圧迫、症状は重度

➡︎ 早めの手術を検討

⑧骨化靭帯が脊髄を重度圧迫、症状は軽度

➡︎ 早めの手術を検討

⑨骨化靭帯が脊髄を重度圧迫、症状は中等度

➡︎ かなり早めの手術を検討

⑩骨化靭帯が脊髄を重度圧迫、症状は重度

➡︎ かなり早めの手術を検討

以上10パターンにわけました。

手術を検討していくケースは、④からです。

⑥以降は、強く手術をすすめます。

⑨、⑩になってくると、手術をしても後遺症が残る可能性が高くなってしまいます。

後縦靭帯骨化症の手術適応は非常に複雑です。

最終的には担当医としっかり時間をかけて話し合ってください。

最後に

後縦靭帯骨化症は、国から指定難病として認められています。

ですので、特定医療費助成制度が利用でき、国から医療費の補助が出ます。

軽症の後縦靭帯骨化症で薬だけの低額治療では、補助は出ませんが、手術などの高額医療では、医療費の補助をしてくれます。

ですので、手術となった場合は、必ず難病指定を申請した方がいいので、担当医もしくは病院窓口に必ず言うようにしましょう。

私なりに、後縦靭帯骨化症に関して、まとめてみました。

今回は、手術に関しては、頚椎に関して、主に話をさせていただきました。

胸椎の後縦靭帯骨化症の手術は、頚椎や腰痛の手術よりも合併症率が多く、特殊性が高いため、別の機会でお話させていただきたいと思います。

この記事がご参考になれば幸いです。

おわり

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